【実習2・パフォーマンスづくりの実践と考察】
3月12日(土)@IID世田谷ものづくり学校 Studio
講座7日目のこの日はぐっと気温が上がりました。本日の講師は前回と同じく、演劇家の山田宏平さん。「アルテナラ体操」でウォーミングアップの後、さっそく講座が始まります。
まず最初に、二つに分かれたグループごとに、違うタイトルの絵本のコピーが配られました。いくつかのページに黄色い付箋がついています。「付箋のある中からシーンを一つ選んで、やってみましょう。前回と同じように、自由な発想で。」と宏平さん。みなさんテキストと挿絵を前に、少しずつアイデアを出し合っていきます。

片方のグループは、印象的な挿絵のついている場面を選んだようです。ナレーションと配役を決め、Studio内にある物をさまざまな小道具に仕立て、動き方や見せ方のアイデアを出しては実際にやってみる、をどんどんくり返しています。
もう一方のグループは、メンバーが家から持ってきた物を広げて、クリップ、空き缶、空き瓶などで様々な「音」をつくろうとしています。さらに、Studio内の椅子を集めて積みあげ始めました。一体何だろう?想像力が刺激されます。

まずは、ある挿絵の場面を再現するグループ。テキストを読みあげるナレーションに合わせ、「挿絵」が動きだします。小道具を扱う間合いや動き方がコミカルで、観客側に笑いが起こります。
続いて、音と椅子を使ったグループ。こちらもナレーションにあわせて場面が進みます。積みあげた椅子を舞台に、様々な音がくり出されていく場面を、観客側はそれぞれの想像力を働かせながら受け取っていきます。
作品がつくられていく過程にも、そのグループを構成する人たちの持ち味が現れるなあと感じました。そのお話に抱くイメージや思いは、一人一人違います。それぞれが持ち寄る感性を絵の具とすれば、一つのシーンには、それぞれが選ぶ色もタッチも違うものがキャンバスにのり、全く違う絵が生まれていきます。そんな偶然性を味わえる場って、おもしろいなあ。
各発表の感想をシェアし合います。「小道具の使い方がおもしろい」「間合いにドキドキした」「一人一人のキャラクターが感じられた」
「音に惹きつけられた」「椅子でヨーロッパの街並が想像できた」などなど、それぞれ工夫したところが観る側にも伝わったようです。

宏平さんの次の呼びかけは、「スピルバーグしよう!」
今まさに公開中の映画「ウエスト・サイド・ストーリー」の監督のように、一つのシーンの細かな箇所を深掘りし、磨きをかける作業をしてみます。
「観ている人によって主人公が違って感じられるようにするには?」「世界を捉えている視点を変えてみると?」…
宏平さんが様々なヒントを投げかけます。動き方を変えたり、それらしい仕草を加えたり。つくっては見せてみる、という作業をくり返すうち、新たな役が生まれたり、ナレーションが役も兼ねたり、即興的な効果が生まれたりと、ストーリーの枠が少しずつ外れ、表現の幅が広がっていきます。
「あと二分でーす」。合間に宏平さんからタイムカウントがかかります。リミットの15分となり、いよいよ発表タイムです!


前半最後の休憩に入る前に、宏平さんから、「忘れ難い瞬間をつくる」ための、即興演劇に大切な二つの力「advance(先に進めていく)」と「extend (横に広げていく)」についてのお話がありました。「子どもへの読み聞かせからズレていく」「場づくり」など
のキーワードに、ふと自分にも身近なイメージが浮かんできました。「始まりと終わり」があって、「そこで偶然起こることを生かしたり包んだりしていく」ようなこと、なのかなあ。
この「広げていく」という概念は、実はアルテナラ世田谷2022のテーマ「あ・い・だ」にも繋がっていると感じました。
自分と自分、人、空間、偶然に起こる出来事。そこにふだんとは少し違う視点を持ち、工夫しながら関わることで、これまでと少し違う瞬間、時間、空間が生まれる。その体験の積み重ねが、受講生たちがつくっていく作品や今後の活動に自然に生かされ、これから関わっていくまちや人との関係性が少し変わったり、周囲に広がったり、物語のように繋がっていくことが、私たち「アルテナラ」の願いなのです。

フィジカルな表現を探求していた前半に対し、「後半は<読むこと>に集中してみましょう」と宏平さん。今度は三つのグループごとに絵本が渡され、「声」や「ことば」を意識しながら、テキストに向き合ってみます。
ダラダラした会話風に読み合わせながら手拍子を揃えたり、文節ごとに読み手を変えたり、一つのセリフを違うトーンで順番に発声してみたり。studio内には様々な彩りの声が響き、まるで言葉あそびをしているような、三つの空間が生まれていました。その声を持つ人それぞれの持ち味も感じられて、場面の印象がぐっと深く、生き生きとして感じられます。

最後の発表で披露されたのは、三つの絵本の「長々と沈黙が続く会議」「村人たちの井戸端的おしゃべり」「講談的なかけ合い」という各シーン。声と音、そして間(ま)によって表現の可能性が広がり、ナレーションなしでストーリーが進んでいくことも体験する時間となりました。



「読む」だけでもなく「語る」だけでもない、その間に生まれていくものを探求する「アルテナラ」の世界に、また一歩近づいたでしょうか。講座は残すところあと3日。4月24日当日、IID(世田谷ものづくり学校)にやってくる人たちと共に仕上げる一枚の絵の探求は、まだまだ続きます。